フェイクなおみさんのもうそうでは@さんはまださなぎになっていない。@さんが登場する虚構とフェイクなおみさんが登場する虚構はつながっている。つなげているのはこの僕だ。
「やすだくーん、あ!、そ!、ぼ!」
ドアの前で大声をあげる@さん。今時そんなふうに呼びかける人いないよ。これを毎回やられるのでこっちは恥ずかしくてたまらない。@さんにやめてくれと言ったのだが全然やめてくれない。
「やすだくん、何これ?」
「え? 辞書ですけど。今@さんを歓迎する遊びを思いついたんで用意してたんですよ」
「ふーん、で辞書をこんなふうに立てて並べて何する気?」
「@さん、とりあえず英和辞書と広辞苑の間に立ってくださいよ」
「え? ここ?」
@さんを5、6冊並べてある辞書の間に立たせた。
「行きますよ」
「え?」
端の辞書を倒した。ばたばたと倒れていく。@さんは広辞苑に倒されてうわ!とか叫びつつもちゃんと次の辞書を倒した。
「うまいうまい」
「うまいうまいじゃないよ! 痛いよ!」
「やー、@さんドミノのコマとしてもやってけるじゃないっすか?」
@さんはむっとして黙ってしまった。
「あ、@さん、実は今日、@さんに会わせたい人がいるんですよ」
「え?誰?」
「じゃーん、なおみさんでーす」
クローゼットに隠れていたなおみさん、すごい形相で「ジュシャー!」の叫び声とともに登場。@さんはびっくりして僕にぺしっと抱きついた。
「っていうか、やすださん、長いよ! いつまでクローゼットの中にいさせるのよ! 私は服か!」
「ごめん」
「ごめん」
「@さんはあやまらなくていいよ。初めましてなおみでーす。とりあえず自己紹介。あらいぐまより動物らしく顔を洗う女の子。元気が取り柄のO型。たまに吠えちゃったりする獅子座。っていうか、わー、本当にこんな生き物いるんだねー(なでなで)」
「でしょ? すごいでしょ? でもあんまりさわっちゃだめだよ。人間のあぶらで弱っちゃうから」
「握りつぶしていい?」
「だめだよ!!」
「はははは、冗談」
@さんは黙っている。
「@さん、どうしたの?」
ぶるぶる震えだしている。スプラッタ映画における爆発して内臓飛び散る系の震え方だ。躰が変異するんだろうか? 僕は身構えた。
「わー、女の子だ女の子だ女の子だ女の子だー」
違った。ただ@さんはそう叫びながら部屋中を走り回わった(っていうか反応遅いよ)。僕となおみさんもそのうしろに付いてわーわー言いながら部屋を走り回った。馬鹿みたいだけどなんか楽しかった。