@さんから電話がかかってきた。
「あ、やすだくん、今ひとり?」
「ひとりですけど」
(ここ1年くらいずっとひとりな気がした)
「今週の土日とか暇かな?」
「暇ですけど」
(ここ5年くらいずっと暇な気がした)
「映画でも行かない?」
「えーーー? なんでですか? 女の子でも誘えばいいじゃないですか」
女の子といっても@さんをカテゴライズしてるところの生物における雌の生き物のことだけど、そんなのいちいち説明したら@さんが傷つくと思ってよした。
「や、いいよ女の子はもう、疲れちゃうから」
「そうなんですか、行ってもいいですけど、なんか気持ち悪いっすね、男ふたりで映画観に行くって言うのは」
男ふたりと言っても@さんをカテゴライズしてるところの生物における雄の生き物と人間の男ってことだけど、そんなこと言ったら@さん切れそうなのでよした。
「映画ってスプリガンですか? スプリガンだったら僕も観たいです。あ、分かった『痴漢電車〜密閉された欲望』とかそういうやつでしょ?」
「や、別に観たい映画があるわけじゃなくて、やすだくんと映画に行ってみたいんだよ」
「うわ! @さん、気持ち悪い言い方っすね。ちょっとぞっとしちゃいました。ど、どうかしたんですか?」
「や、どうもしてない・・・」
それきり@さんは黙り込んだ。何かあったんだなと僕は思ったけど、心配の言葉をかけなかった。
「あ!! そうだ思い出した、@さんビデオ返してくださいよー、あれ、すごかったでしょ? や、あれ手に入れるの苦労したんですよ。なんか僕すごく観たくなってきてうずうずしてるんですよ、もう我慢限界って感じで。って@さん?」
電話は切れていた。