THIS IS NEUTRON

1997.09.05 村上N

"NEUTRON"こと村上Nは神奈川県在住、若干22歳の新人テクノクリエイターだ。彼の作り出す硬質で疾走感あふれるベースラインを基調としたハードミニマルは多くのテクノクラバーに支持され、また作品そのものの音楽的評価も高い。そうした強力なビートを生み出す機材は意外にもRoland MC303のみ。

「機材は多くても困るだけです。金がなくて買えねえってのもあるけど(笑)」

と話す彼のパワーの源はパンキッシュな初期衝動によるところが大きいようだ。

そしてこの度リリースされた1stアルバム「THE PROCESS OF ACCESS」にもその思いが溢れんばかりに詰め込まれている。ミニマルのみならずアシッド的アプローチの曲から、ヒップホップビートを大胆に取り入れたものまでむしろ雑多な音楽センスを感じさせる問題作だ。彼が今後この流動的なテクノ業界において、どんな道を歩いていくのかに対して興味があるのではない。彼がどんな道を作っていくのか。そんな事を思いながら話を聞いてみた。

これはインタビューする時必ず聞くことなんですけど、まず最初に曲を作る上で考える事って何ですか?

「うーん。やっぱフロア向けか、そうでないかと言う事ですよね。基本的に根本的にダンスミュージックっていうのが大前提です。でそのために重要というか、必然なのがリズムですよね。いかにグルーヴを出すか。最初はそれプラス、いかに効率的にやるかという事も含まれてきてはいますけど。」
それはやはり今後、音数が少なくなってくるということですか?

「そうですね。音数を減らしても踊れるものって難しいと思うんですけど、ジョイ・ベルトラムとか最近少ないじゃないですか、異常に。でも十分ノってるでしょ? ああいうものが作れるというのはフロアにいるお客さんの気持ちを理解できてこそですから。言い換えればダンスミュージックを知っているというか。そうありたいですよね。自分自身が楽しむ事がいい曲作りに繋がるっていう。だから自分で作る場合”自分が踊れてなんぼ”なんですよ。」
となるとライブも重要なものとして認識されてくる訳ですよね。

「そう。やっぱ面白いですよ。曲に合わせて何万って人が動くわけですから。正直、馬鹿みたい(笑)。気持ち悪いっすね。なんかの病原体みたいなんですよ、上から見てると(笑)。でそういう事からも言えるけど、シンセを買う際にパソコンのシーケンスソフトを選ばずに、MCを選んだのも機動性重視かつ操作のライブ感覚が気に入ったからで。家でちまちまやるよりも。そういうインサイドな奴らの曲ってやっぱダメなんですよ、個人的に。」
いわゆるインテリジェントテクノ?

「なんなんですかね、あれは。そんな事で偉ぶられてもなあって感じ。別にダンスの方が偉いって訳でもないけど、ああいうTR909のベードラとか大音量だからこそ凄いんであってね、最初からそのアドバンテージを放棄してるも同じなんですよ。」
さてそろそろアルバムの話も並行して聞いていきたいのですが、アルバムはどうですか?

「(爆笑)漠然としてんな、おい。それもインタビューするとき必ず聞いてる質問ですか?(笑)」
そうです。(笑)

「じゃあしょうがねえや。(笑)うーんいいと思いますよ、比較的。どれだけできるか挑戦の部分も多かったし、それも大方成功したし。」
僕も聞かせてもらいましたけど、率直な感想としていい意味で下品だと思いましたけど。

「なにぃぃ!失礼なっ(笑)」
(笑)いや、すごく音楽的に雑食なイメージを持ったということですよ。特にイントロ部分とか、「何でもあり」的な感じが溢れてるじゃないですか。

「あー、なるほどね。それはあるかもわかんないですね。なんでも食べるって感じの。うん、あんまり考えないですよ。自分の音楽はテクノだとか。当然すべてシンセで曲作りしてる訳だし、反復する音楽が好きっていう好みの問題で結果として世間がそう定義するのであって。本当その通り、何でもありですね。小室がバックドロップされたら面白そうだなーとか。(笑)」
パフィーのリミックスとかも。

「ねえ。(笑)あれも聞かせる前は”リミックスの概念を越えてる”とか”この曲すごいわ、我ながら”とか言ってさんざん盛り上げといて、これかよーって感じですもんね。お前が一緒になって歌ってるだけじゃんって。しかも酔っぱらって。(笑)でもリミックスはリミックスですから。(笑)」
確かに(笑)で一曲目に移りますが、繋ぎがなかなかかっこいいですよね。

「でしょ。この曲はかなり初期に完成したやつで、それ以降ほとんど加えてないんですよ、他の曲と違って。まあ純粋なトランスがやりたくて作ったものなんですけど。」
結構長い曲ですよね。

「ええ。この曲に限らずパートごとの絡みをちゃんと聞かせたいっていう願望があって、それがベースから順々に合流していく曲構成として現れるんです。すべての曲がそうだと能がないんですけども、この『LINER』に関しては、すごく直線的な疾走感みたいなものを狙ってあえてそういう曲構成にしました。タイトルもそんなイメージからです。」
途中終わるようなフェイントもありつつ。

「あれはトンネルです。トンネルに入っていくのと出てくる感じ。」
で、「pick the bug」、「OVERREACTION」と2,3曲目はずいぶん趣向が変わりますね。

「そうですかね。”pick〜”はブリープみたいなものを作ろうと思ってたら、途中で全然違う方向に行って最終的にこうなってしまいました(笑)。」
”ザッ、ザーザッ”って感じのブレイクビーツも入ってますよね。

「ヒップホップの人とかで口でブレイクビーツ言ってるやついるじゃないですか。そんなものを狙って。あとこの曲だけベースドラムの音色が違うんですよ。他のパートのメロディとかベースとかも、エフェクトほとんどかけていません。他の曲とかコーラスとかバープを少なからずかけてますけど、この曲は”素の音”で構成したかったもんで。広い空間性じゃなくて逆に狭い空間を意識して。」
「OVER〜」もアシッドらしいアシッドに仕上がってるし、結構この2曲は個人的に好きなんです。

「うーん・・・。あんまり気に入っていない、これは(笑)どうもねえ・・・。」
それはどうして?

「えっと、これはその通りアシッドを意識した曲で、全てのパートの音をTB303の音色で作ろうという明確な意志のもとに始めたんですけど、本当に苦しみましたね。ハードフロアとか尊敬しますよ、まじで。ああいううねったようなノリを出すのは難しい。ま、確かにMCで出せるTBの音色って実際のTBの音とは違うんですよね、音の厚さとかベンドの具合とか。ちょっと軽い感じで。それにしても音の重なり方とか苦労しました。」
この曲もブレイクの時テンポが遅くなったりしてますけど、ブレイク後の展開にはこだわりみたいなものを感じるんですが。

「昔、”ACID WARS”ってドイツの曲がありましてそれにだんだんテンポがのろくなる箇所があって、それを意識してます。というよりパクリ(笑)です。あんま曲として納得がいかなかったので、そんなところでごまかしてますね。」
で4曲目、これは新境地開拓といったところでさらに変わってますけど、こういった低速のヒップホップビートは意外ですよね? どんな経緯で作られたんですか?

「うん、でも低速って言っても126BPMだから普通のハウスと同じくらいですけどね。これはもともとケミカルブラザーズみたいなトリップホップも凄く好きで、最近ならプロディジーとかその辺のデジタルロックってやつですか?よく聞きますよ。だからこの手のリズム、つまりグラウンドビートってものは低音域がより重要になると思うんです。それはベースを含めてなんですけど、キックとベースを絶対にはずしちゃいけないんですよね。それしちゃうと全くノリが失われる、難しいとこですけど、ある程度うまくいってると思う。自分でも気に入ってますね、これは。」
やはり今後はこういうタイプの曲が増えていくんですか?

「ま、それもありかなとも思いますけど、2曲目の”pick〜”みたいに最初は4分打ちで途中からリズムががらっと変わっちゃう展開の曲という形で追求してもいいですよね、別に作る曲全部を全部遅くしなくても。さっきも言ったけど何でもありですから。」
あのMC303ってシンセはそういうヒップホップみたいな曲を作るには便利そうですもんね。

「何がいいってリズムパートの打ち込み方式じゃないすか。良くない場合、すぐ変更できるのがいいですよね。すごく視覚的なんですよ。」
それで最後の曲「HIGH MILLIVER」なんですけど、とても清涼感があって最後の曲にふさわしい曲だと思うんですが、なんかイギリスのいわゆるUKトランスを連想させますね。

「当たらずとも遠からず、なんですけど、うーん、なんだろ。メロディーが16分音符の繰り返しじゃないですか。”タラララ、タラララ”って。それをアシッド的にリアルタイムで音色を変えて曲を構成したいと思ったのが発端で、最初はあまり意識したものはなかったです。けどアンダーワールドとかそんな感じの曲多いですよね。それでそう感じたんだと思います。」
アシッドで思い出しましたけど、最近はゴアトランスが盛り上がってますよね。

「うん、でもどうもね・・・。アシッドの方法論とか安易だと思いません?すごく質的にひどい曲とかあるから。10分くらいで適当に作ったような曲。ゴアははっきり言って好きになれないですね。音が基本的に多いですから。」
でも僕もこれが一過性のブームになるんじゃないかっていう危惧があるんですよ。

「多分そうなるかも・・・。なんかダメですね、ダンスミュージックでも。ってさっきと違う事言ってんじゃん(笑)。僕にはゴージャスすぎますね、トゥーマッチです。昔ハードコアと呼ばれていたテクノのファン層がどんどん若年化していって、すごく馬鹿にされてレイブとともに衰退していった事があったじゃないですか。今のゴアを取り巻く状況が極めてそれとよく似てるんじゃないかと思うんですよね。」
その危険性はありますよね。その反動で曲を作ってる心境ってありません?

「いや、だから何でもありだから(笑)。ゴアは自分では絶対作らないけど、誰かDJがかけてたら踊ってるかも(笑)。」
すべての音楽に対してオープンマインドだと。それで最後もパフィーで(笑)。

「そう(笑)。しつこいぐらい。」
まあ、5曲入りということでミニアルバムといった感じですけど、非常にバランスの取れたものになってるんではないですか?

「ええ、そうだと思います。」
次回作はどんなものになりそうですか。

「今考えてるのは、DJ MIXみたいな感じのノンストップの奴ですね。曲的にはもっと広義的な意味でのミニマルを目指したいです。もっと視野を広げてみたいな、と。」
最後にメッセージをお願いします。

「がんばります(笑)。」

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